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最高裁判所第一小法廷 平成9年(行ツ)212号 判決 1998年2月26日

山口県小野田市中央一丁目二番二〇号

上告人

御馬舎宏道

右訴訟代理人弁護士

平岡雅紘

山口県宇部市常盤町一丁目八番二二号

被上告人

宇部税務署長 石原明男

右指定代理人

渡辺富雄

右当事者間の広島高等裁判所平成七年(行コ)第六号課税処分取消請求事件について、同裁判所が平成九年七月一八日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。

よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人平岡雅紘の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎす、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井嶋一友 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠野光男 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)

(平成九年(行ツ)第二一二号 上告人 御馬舎宏道)

上告代理人平岡雅紘の上告理由

原判決の事実認定は、経験法則に著しく違反しているばかりか、判例にも違反するなど法令の解釈に誤りが認められ、更に信義則違反ないし禁反言の法理を適用しないなどいずれも判決に影響をおよぼすこと明らかな法令違反が認められるから、原判決は破棄されるべきである。すなわち、

一、原判決の事実認定は、経験法則に著しく違反している。原判決は、正彦に対する報酬の一部及び倭玖子に対する給料等はいずれも、所得税法第三七条一項に規定する必要経費に該当しないと認定しているが、右認定が経験法則に著しく違反していることは、上告人の平成八年六月五日付準備書面(一)の第一の一ないし三で主張しているとおりであり、原審(控訴審)において上告人が新たに提出した甲第七号証ないし第二四号証ならびに孝彦の証言もこれを裏付けている。

二、原判決は、所得税法第三七条一項(必要経費)に関する判例にも違反し、結果的に法令解釈に誤りが認められる(条解民事訴訟法、兼子一外、弘文堂一二〇五頁)。

1、被上告訴人(原告)も引用しているように、「そして、事業所得における必要経費とは当該事業について生じた費用、すなわち、業務との関連性が要求されるとともに、業務の遂行上必要であること、すなわち、必要性が要件となり、さらに、事業遂行のために必要か否かの判断は、単に事業主の主観的判断のみではなく、通常かつ必要的なものとして客観的に必要経費として認識できるものでなければならない(東京高裁判決、昭五三、四、一一、訟務月報二四巻八号一六七三頁)」ことはいうまでもない。しかしながら、他方、その客観的というのも、具体的に納税者の立場に立ったうえで、個別的、具体的に判断すべきであり、外部から抽象的、機械的に判断すべきでない。

2、ところで、この点につき原審は、第一審判断を踏襲しており不当であることは前記一の準備書面(一)の第一の三において主張しているとおりであり、原審には法令解釈に誤りが認められる。

三、原判決には、信義則違反ないし禁反言の法理不適用の法令違反が認められる。

1、この点につき、原審は、「課税処分は、もともと租税法規に基づいて客観的に定められるべき処分であるから、右処分について信義則ないし禁反則の法理違反があるというためには、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示し、納税者がその表示を信頼して行動したところ、後に右表示に反する課税処分が行われたため経済的不利益を受けることになったというような特別な事情のあることが必要と解される。」旨原則を示したうえで、検討した結果、本件の場合、被控訴人(原告)において控訴人に対し公的見解を示したことはないと認定して排斥人の主張をは排斥している。そして、右原則は、被上告人が引用している判例(最高裁、昭、六二、一〇、三〇、第三小決、判例時報一二六二号九一頁)に依ることも明らかである。

2、ところで、右判例は青色申告に関するもので必ずしも本件に適用されるべき事案ではない。本件の場合、すでに上告人(控訴人)の平成八年二月二〇日付準備書面の一の(一)で詳述しているとおりであるから右を援用する。そして、同書面において主張する事実関係に照らせば、被上告人が上告人に対し長期間その納税行為及び税額を認めたうえで収税してきた行為は正に右判例のいう「税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示した」に該当し、少なくともこれと同視し得る行為と認めるべきである。

四、以上のとおり、原案には前記一ないし三の法令違反が認められ、いずれも判例に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は破棄されるべきである。

以上

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